ジェーンに何が起こったか

育児に追われ家事に追われ、毎日はただ次へと次へと追いやるだけのものになりさがる。

子供、そして家の事に優先順位を奪われ、もはや自分のことなど二の次三の次、
いやまるきり順番が回ってこない始末。

髪型、メイクのニュアンスを変えてみたところで
家から出ない生活で外の誰にふれあうこともない状態ではイミもなく、
それ見た子供がフィードバックしてくれるはずもなく
ましてや主人の視神経は華麗にスルー。
そのうち、女は諦念の河に身をゆだねるようになる。


その身をゆだねっぱなしのコタツ、および背もたれ状態のソファーから
テレビを眺める自堕落な午後、
急に再放送し始めたちょい昔の月9ドラマかなんかに
次シーズンの月9枠の配役の布石を感じ取ったりしながら

「はああん、このトレンディー女優、なに？復帰なわけ？」

としたり顔でつぶやいたりしながら卓上に溜まった剥いたミカンの皮を限界にまで両の手で丸め、
上半身のひねりと腕のリーチだけでゴミ箱に到達しようとした瞬間、
普段存在すら忘れていた部屋の隅にたてかけてある鏡に
気を抜いたオノレのありのままの姿を見てしまう。



「うげあだああ！？」


普段、見ることがないだけの自分のなかでのセルフイメージは
加齢や、各シーズン、日々の状態によるダメージが正しく補完されることはなく
若いときのまま都合良く止まり、かつ誤変換され、
ヘタをすれば幻想上の生き物状態になっており
目の前の、また、気を入れて映った姿ではない弛緩しまくった素のままの自分、
いわゆる「現実の姿」に女はおののく。

また、ついさっきまでテレビに出てる女優をずっと眺めていたのもあり、
（かつその女優が自分とほぼ同年代であるという条件も加わり）
さらに現実ショックは加速度を増す。


女はあわあわわわあわと慌てフタめき、握ったミカンの皮を振りこぼしながら、
思わず振り向いて


「今、このテレビの女優の後に、鏡に映った自分の顔をみちゃって
そのギャップにすげえショック！！」


と叫んだら、その奥様、動じる風もなく


「あら！？わたくしには
全然違いが
わからなくってよ！？」

「ホホホホホ！」





「あっこの部屋に
菜々子が3人！！」

「ああ！どれが本物かわからないぐらい！」



…というわけで現実を認めるか、もしくは
鉄壁の精神シールドでもって幻想の世界に生きるかの
二者択一を迫られたような気分になってしまい、
その、拳王奥様がおっしゃるトコロのエセ菜々子であるワタクシは
この日からココロを入れ替え、とりあえず化粧水だけは朝晩つけるようになったのでございます…。
（それまでマジで石けんで洗って化粧水も付けない生活…）
そいでもって他の奥さんにも非難と指南を受けて現在化粧品購入検討中…。
ジツは人生、メイクをしたことがほとんどなく、ファンデにいたっては今まで数回くらい…
メイク好きな奥様！私を変身させてみない？メイクアップアドバイザー募集中！！
あと化粧品売り場が嫌い！すげえキョドるの！
キョドったあげくガンって商品の棚に激突するくらい！
それで毎回ク○ニークのねえちゃんの網にひっかかるの！
あああ売り場のねえちゃんがこええ！


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